ムーミンの原作を読んでいくことにした

先日、トーベ・ヤンソンの映画を観に行った。私は(きっかけは忘れたものの)ムーミンが好きで、ヤンソン展やムーミン展も行ける機会があればできるだけ足を運んでいたので、ここは観ておくべきではないかと思ったのだ。

さいころアニメを観た記憶はあるが、そもそもムーミンやパパやママ、スナフキン、ミイ、スノークのおじょうさん(アニメでは確かフローレンと名前が付けられていた)など、名前やキャラクターを知ってはいても、物語の中身は全く知らなかった。トーベの映画を観ることで、その成り立ちを少しでも知ることができるのではないかと思って観に行ってはみたものの、実際映画はトーベの人生の物語であって、ムーミントロールやそれを取り巻く世界のなんたるかはたいして出てこなかった。

映画自体はそこそこ面白かった。トーベ・ヤンソンという女性がムーミンというキャラクターを得て人生の成功者になったというような描かれ方ではなくて、彼女は理想と現実の狭間でもがきながら生きていたし、私生活はなかなかに大胆だったようで、映画の中でも男性と不倫をしたかと思えば女性と運命的な恋愛をし、また男性と結婚したりしていた。魅力的なひとだったのだろうと思う。

人生の後半を共に島で暮らしたトゥーリィッキという女性がよく知られているのかと思うが、彼女と出会う前に交際していたヴィヴィカという女性と、トーベ自身をモデルにしたキャラクターがムーミントロールの物語に出てくる。トフスランとビフスランだ。私はこの日記の最初に書いたように原作の本を読んだことがなく、彼らがどういう存在で、どんな背景を経て生まれたのか全く知らなかったので、興味深かった。

トーベの映画を見たあと、最近はもう気が向いたときに覗くだけになっているFacebookを開いていると、私がずっと気になっては参加ボタンを押せなかった「猫町倶楽部」という読書会のお知らせが届いていた。1年かけてムーミンの原作を読んでいく、という趣旨の読書会だった。

私はずっといつかムーミンの原作を読もう読もうとは思っていて、ジュンク堂に行くたびに目に入る「トートバッグがついてくる!」というムーミン全集を横目に見ていたので、これは今がタイミングかもしれない、と参加ボタンを押した。ここ最近は全くと言っていいほど読書習慣がなくなってしまっていたし、こうやって強制的に本を読む機会を作ろうと思ったのだ。

かくして私は、1年越しぐらいにやっとBOX入りのムーミン全集を手に入れた。もちろん、ジュンク堂で。

読書会自体は『ムーミン谷の彗星』から始まっていたため、私は2作目の『たのしいムーミン一家』から参加することになった。読書会の参加条件には当然、課題図書を読み切っていること、がある。そこで、最近薄れていた読書の感覚をなんとか復活させて読み切った。

『たのしいムーミン一家』は、ムーミン谷の人々が冬眠に入るところから始まる。春が来て、一足先に目が覚めたスナフキンを追いかけてムーミントロールが目を覚まし、まだみんなが起きていない中出掛けたおさびし山のてっぺんで不思議なシルクハットを見つけ、その帽子がさまざまな騒動を引き起こすというストーリーだった。アニメの記憶もさほどなく、正直なところ数人のキャラクターしか知識のない状態だったので、ムーミンの家には意外といろんな人が寝泊まりしていることや、ピクニックの必需品に「たまごのかくはん器」が含まれていること、ムーミン谷が存在する世界にはアメリカも存在していることなど、へえ、と思うことがたくさんあった。あとニョロニョロは案外無害な存在でもないらしかった。

私はトーベ・ヤンソンの描くムーミンの独特な絵が好きで、話の内容ももちろんなのだけれど、挿絵の美しさが嬉しかった。後半にムーミンママが失くしたハンドバッグを見つけた人へのお礼に開催するパーティのシーンがあるのだが、夜の花火とパーティの喧騒を白と黒だけで表現している挿絵がとても綺麗で好きだった。

初めて参加した読書会も面白かった。新訳の訳者さんが参加されていたり「スナフキンムーミンの関係にBLみを感じた」という話があったり。児童文学好きの参加者さんがいらっしゃったりして、私もずっと児童文学が好きなので、読書好きが大勢集まると私のような嗜好の人も少なくないのだなと思って嬉しかった。印象に残ったシーンはぞれぞれ違ったり、「確かに」と同意できるところもたくさんあったりした。感想を言葉にすること、自分の思ったことを人に伝えること、最近はあまりしないようになっていて、たまにはこういう場で伝える練習をするのもいいなと思ったのだった。ので、今深夜にこのブログを書いている。

ひとつ、私が印象に残っている台詞がある。「飛行おに」がみんなの願いをどんなことでも叶えようとしてくれるシーンでの、ムーミンパパの一言だ。

「だけど、えらぶのがひどくむずかしいわい。思いつくものはどっさりあるが、ぜったいにこれでなくちゃならんというものがない。温室は自分でつくったほうがおもしろいし、こやしの山だってそうだ。それに、わしはたいていのものはもってるんでなあ」

ムーミンの物語を読んでみて、特に何かを伝えたいという深いメッセージ性のある物語だとは感じなかったけれど、この一文だけは読んでハッとさせられた。私自身、日々いろんなことを求めがちだけれど、自分の持っているものや求めるもの、おもしろさ、なんかは自分で探してつくっていくこともとても大事なことだ、と感じた次第。

読書会は一年かけて全作品を読み切るところまでいくとのことなので、今後も参加してムーミンの世界に詳しくなっていきたいと思う。