『下鴨アンティーク』白川紺子

去年から本を自分のペースでできるだけたくさん読もうと決めて、月に2冊以上は本を読むようにしている(わたしはどうも読むのに時間がかかるので、2冊でもがんばっているうちに入る)。そんな中で、結構(いや、かなり)続きを楽しみに待っているのが白川紺子さんの『下鴨アンティーク』シリーズだ。

さいきん、初めから文庫で出版されるレーベルがいくつかあるけれど、これもそのうちの一つ。作者の白川紺子さんはこのシリーズで初めて知ったのだけれど、他にもコバルトなんかでも本を出しているのにだいたい半年に一冊ペースでコンスタントに新作が届けられるので、次回作もそれぐらいかな、はやく読みたいな、と先の楽しみができるのがうれしい。

下鴨アンティーク アリスと紫式部 (集英社オレンジ文庫)

下鴨アンティーク アリスと紫式部 (集英社オレンジ文庫)

 
下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ (集英社オレンジ文庫)

下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ (集英社オレンジ文庫)

 
下鴨アンティーク 祖母の恋文 (集英社オレンジ文庫)

下鴨アンティーク 祖母の恋文 (集英社オレンジ文庫)

 
下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ (集英社オレンジ文庫)

下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ (集英社オレンジ文庫)

 
下鴨アンティーク 雪花の約束 (集英社オレンジ文庫)

下鴨アンティーク 雪花の約束 (集英社オレンジ文庫)

 
下鴨アンティーク 暁の恋 (集英社オレンジ文庫)

下鴨アンティーク 暁の恋 (集英社オレンジ文庫)

 


並べてみてもよくわかるけれど、表紙がとても素敵だ。このシリーズは着物にまつわる謎を解いていくというストーリーなので、それぞれのお話に出てきた着物のモチーフが描かれている。色も鮮やかで目を引くので、思わず手にとってしまったのが『回転木馬とレモンパイ』。アンティーク、回転木馬、レモンパイ…と、私にとって心踊るキーワードばかり。どんなお話なんだろう?と読み始めたのがきっかけで、久しぶりに新しくお気に入りの作家を見つけられたことがうれしかった。

ちなみに刊行順に並べているので気づくかもしれないけれど、回転木馬とレモンパイは実はシリーズ二作目で、すこし読んだところであれ、これってもしかしてシリーズもの?と気づいたのだった。ただ、基本的にはひとつのお話でひとつの謎を解いていくものだったから、二冊目を最初に読んでもそれほど影響はなかった。なぜ主人公がそんなことをやるようになったのか、を知る前に読んでしまっただけで(わりとそこは重要な気はするけれども)。

主人公は京都に住む女子高生で、元が旧華族の家柄なので、住んでいる家も煉瓦造りの洋館という、まずその設定から私好みだった。主人公の鹿乃と兄の良鷹、そして良鷹の友人である同居人の慧という青年の三人が主な登場人物だ。鹿乃と良鷹は両親を早くに亡くしており、祖父母に育てられた。祖父母も亡くなっているのだけれど、祖母の芙二子がいろんな人から預かって蔵に保管している着物がなにやらどれも訳ありな代物で、何かのきっかけで着物に異変が起こったり、する。そして、鹿乃たちはそれを元に戻すためにその着物にまつわるエピソードを探っていくという、主にそういうお話。

祖母が預かった着物なので古いものも多く、持ち主がすでにこの世を去っていることも少なくないのだけれど、それでも周りの人や子どもや孫、関わりのあった人たちからいろいろな話を聞いて、それがそれぞれひとつの素敵なお話になっているのがとてもいいなあと思うし、わたしは大正や昭和初期という時代になんとなく憧れがあるので、それぐらいの時代背景のエピソードにまた惹かれるのだと思う。

登場人物やストーリーが魅力的なことはもちろんだけれど、鹿乃が着ている着物でテーマ遊びをしているのもまた、いい。

 

鹿乃が今日着ているのは、白と黒のモダンな市松格子の紬。グレー地の染め帯には、黒猫の柄。帯締めは紅白の市松模様で、帯留めは乳白色のとんぼ玉だ。帯揚げは白の絞りで、半衿は赤。
(中略)
白黒の市松は、チェス盤。黒猫は、アリスの飼い猫キティ。赤の女王に、白の女王。帯留めのとんぼ玉は、ハンプティ・ダンプティ──卵のキャラクター。すべて、『鏡の国のアリス』に出てくるモチーフだ。
『下鴨アンティーク アリスと紫式部 』ー 「アリスと紫式部」より

 

杏色の地に絞りで大柄なとんぼをあしらった小紋に、草色の籠目文様の染め帯を合わせていた。帯揚げや半衿は藤色で、初秋らしい、落ち着いたやわらかな色合いにまとめている。
(中略)
今日のテーマは籠目文様を虫捕り網に見立てての〈とんぼ捕り〉だった。
『下鴨アンティーク 神無月のマイフェアレディ』 ー 「星の光をあなたに」より

 

こんな風に時々でアンティーク着物の描写があるから思い浮かべるのも楽しいし、着物に憧れる。そしてこういう可愛い組み合わせや着方を考えつく作者も素敵だなあと思うので、読むごとにどんどんこのシリーズが好きになる。
そして、巻が進むごとに主人公たちの関係もすこしずつ変化していくのだけれど、一進一退でもどかしかったり、きゅんとしたり、ハラハラしたりと、それも楽しめて飽きのこない面白さというのかな、いつも次が楽しみ。ちなみにわたしはお兄ちゃんが大好きすぎるので、お兄ちゃんには本当に幸せになって欲しいし、お兄ちゃんの話もっとください…!!!(ちなみにこのエントリは最新巻のお兄ちゃんがかっこよすぎていてもたってもいられないので殴り書きしているという部分も、正直ある)

優しいお話ばかりだけれど、ときどきすこし悲しいものもあったり、でもどれも気持ちよく読めるもの。もはや次の巻が読みたくなっているわたしです。なんだか、京都に行けばみんなが今も着物の謎解きをしているような、そんな不思議な魅力があるんだよなあ。